相続した不動産を売却して現金で分けるには?換価分割で円満に相続する方法【前編】
「父が亡くなり、兄弟姉妹3人で実家を相続することになった」
「兄弟姉妹の誰も実家に住む予定がないので、売却して現金で公平に分けたい」
「不動産を兄弟姉妹の共有名義にして、後々もめることは避けたい」
相続のご相談では、このようなお話を伺うことが少なくありません。
預貯金であれば、1,500万円を兄弟姉妹3人で500万円ずつ分けることができます。しかし、3,000万円の価値がある実家を、そのまま3人で公平に分けることは簡単ではありません。
さらに、不動産は単に「3,000万円の財産」と考えればよいものでもありません。所有している限り、固定資産税をはじめ、建物の修繕や庭木・空き家の管理などの費用や手間がかかります。また、建物や塀、庭木などの管理が不十分なことによって第三者に損害を与えた場合には、損害賠償責任が問題となる可能性もあります。
つまり、不動産を相続するということは、その財産的な価値だけでなく、将来の維持管理に伴う負担やリスクも引き継ぐということです。
そこで、相続した不動産を利用する予定の方がいない場合に検討したいのが、不動産を売却して現金に換え、その売却代金を相続人で分ける「換価分割」です。
川崎・横浜をはじめ、東京都内など首都圏の相続では、自宅や土地などの不動産が遺産の大きな割合を占め、「預貯金はそれほど多くないものの、実家には相応の価値がある」というケースも珍しくありません。
この記事では、相続を専門に取り扱う司法書士・行政書士であり、宅地建物取引士の資格も有する専門家の立場から、相続した不動産を売却して現金で分ける「換価分割」について、そのメリットや注意点を分かりやすく解説します。
相続した不動産を兄弟姉妹で分ける4つの方法
相続財産の中に土地や建物などの不動産がある場合、主な分け方として「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の4つがあります。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
1.現物分割
現物分割とは、それぞれの遺産をそのまま相続人が取得する方法です。
例えば、
- 長男が実家を相続する
- 長女が預貯金を相続する
といった分け方です。
比較的分かりやすい方法ですが、実家が4,000万円、預貯金が1,000万円というように財産の価値に大きな差がある場合には、相続人の間で不公平感が生じることがあります。
また、不動産の価値は預貯金のように金額が明確ではないため、それぞれの財産をどの程度の価値として考えるのかが問題になることもあります。
2.代償分割
代償分割とは、一人の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人へ自分の財産から金銭を支払う方法です。
例えば、4,000万円相当の実家を兄弟2人で相続する場合、兄が実家を取得し、妹へ2,000万円の代償金を支払う方法が考えられます。
実家に住み続けたい相続人がいる場合などには有効ですが、不動産を取得する相続人には、他の相続人へ代償金を支払うだけの資金力が必要となります。
また、不動産は預貯金のように金額が明確ではなく、実際に売却してみなければ最終的な市場価格が分からないことも少なくありません。
そのため、固定資産税評価額、相続税評価額、不動産会社による査定額など、どの金額を基準にするのかについて意見が分かれることがあります。さらに、不動産会社の査定額も会社ごとに異なることが多いため、評価額をめぐって相続人間で話し合いがまとまらないケースもあります。
不動産を取得する側と代償金を受け取る側では、不動産の評価額についての考え方が異なることもあり、代償分割では「不動産をいくらと評価するのか」が大きな問題になりやすい点にも注意が必要です。
3.換価分割
換価分割とは、相続した不動産を売却して現金に換え、その売却代金を相続人で分ける方法です。
例えば、兄弟姉妹3人が相続した実家を3,600万円で売却し、仲介手数料など売却に必要となった費用を差し引いた残金を、3人で合意した割合に従って分けます。
相続人の誰も不動産を使用する予定がなく、できるだけ公平に遺産を分けたい場合には、有力な選択肢となります。
ただし、換価分割は、不動産を売却して現金を分ければ終わりという単純な手続きではありません。
相続人の確定、相続財産の調査、不動産の査定、遺産分割協議、遺産分割協議書の作成、相続登記、不動産売却、売却代金の精算・分配など、多くの手続きを順番に進める必要があります。さらに、相続税や不動産を売却した際の譲渡所得税について検討が必要になることもあります。
しかも、これらの手続きはそれぞれ独立しているわけではありません。
例えば、遺産分割協議書をどのような内容にするかによって、その後の相続登記や不動産売却、売却代金の分配方法にも影響します。
そのため、一つひとつの手続きを個別に進めるのではなく、最終的に不動産を売却して各相続人へ現金を分配するところまで見据え、全体の流れを整理しながら進めることが重要です。
公平に分けやすいことが換価分割の大きなメリットである一方、関係する手続きが多く、それぞれを適切なタイミングで進めなければならない点は大きな負担となります。
相続・登記・不動産売却・税金など、複数の手続きをトータルで整理しながら進める必要があることが、換価分割の難しいところといえるでしょう。
4.共有分割
共有分割とは、一つの不動産を複数の相続人の共有名義にする方法です。
兄弟姉妹3人であれば、それぞれ3分の1ずつの持分で相続することなどが考えられます。
一見すると公平な分け方に見えますが、共有名義にした後も、不動産の管理や費用負担について共有者間で調整していかなければなりません。
例えば、固定資産税をどのように負担するのか、建物の修繕を行うのか、庭木や雑草、空き家の管理を誰が行うのかなど、所有している間にもさまざまな問題が生じます。
また、将来その不動産を売却したくなった場合にも、共有者間で意見を調整する必要があります。
さらに、共有者の一人が亡くなると、その人の持分について再び相続が発生し、子や孫などへ権利が引き継がれていきます。これを繰り返すうちに共有持分が細分化され、共有者の数が増えていくことがあります。
当初は兄弟姉妹だけの共有だったものが、次の世代、その次の世代へと相続されることで、共有者同士の関係も「甥・姪」「いとこ」「さらにその子ども」へと遠くなっていきます。
その頃には、それぞれが全国各地に居住していることもあり、誰が共有者なのかを確認するだけでも大変な労力がかかります。連絡先の把握や意思確認が難しくなり、不動産の管理や売却について話し合いがまとまらなくなることもあります。
そのため、「とりあえず兄弟姉妹の共有名義にしておこう」という方法は、現在の相続問題を解決したように見えて、実際には問題を将来へ先送りしているにすぎない場合があります。さらに相続が繰り返されることで共有者が増え、関係性も遠くなり、管理や売却の話し合いは一層難しくなります。共有状態は、時間が経つほど問題が大きくなる「時限爆弾」のような状態になってしまうこともあるため、安易に共有名義にすることは慎重に検討する必要があります。
誰も住まない実家なら「売却して現金で分ける」という選択肢
親が住んでいた実家だからといって、必ず誰かが相続して所有し続けなければならないわけではありません。
例えば、
- 相続人全員が既に自宅を持っている
- 実家は川崎・横浜や東京都内にあるものの、子どもたちはそれぞれ別の地域で暮らしている
- 実家に住む予定の相続人がいない
- 賃貸物件として利用する予定もない
- 兄弟姉妹の誰か一人が取得することを希望しているわけではない
- 将来、不動産のことで兄弟姉妹間でもめたくない
という場合には、不動産を売却して現金で分けることを検討してもよいでしょう。
現金であれば1円単位で分けることができるため、不動産をそのまま分ける場合と比較すると、相続人それぞれが納得しやすくなります。
また、不動産を実際に第三者へ売却することで、「この不動産をいくらと評価するのか」という問題も生じにくくなります。
相続した不動産を売却して現金で分ける3つのメリット
1.兄弟姉妹で公平に分けやすい
換価分割の大きなメリットは、不動産という「分けにくい財産」を、現金という「分けやすい財産」に変えられることです。
例えば、不動産の売却後に諸費用を差し引いて3,000万円が残り、兄弟姉妹3人で均等に分けることで合意していれば、一人1,000万円ずつ取得できます。
不動産を誰か一人が取得する場合に比べ、「誰が価値の高い財産を取得したのか」という不公平感が生じにくく、円満な遺産相続につながりやすくなります。
2.不動産の共有による将来のトラブルを避けやすい
相続時には仲のよい兄弟姉妹であっても、5年後、10年後まで考えが同じとは限りません。
将来、
「そろそろ売却したい」
「まだ持っていたい」
「賃貸に出したい」
など、それぞれの考えが異なってくることがあります。
さらに次の世代への相続が発生すれば、共有者の人数が増え、権利関係がより複雑になる可能性もあります。
誰も利用する予定のない不動産であれば、今回の相続を機に売却して現金で分けることで、将来にわたって共有関係が残ることを避けることができます。
3.固定資産税や空き家管理の負担をなくせる
不動産は、所有しているだけでも固定資産税などの負担が生じます。
実家が空き家になれば、
- 庭木や雑草の管理
- 建物の換気
- 雨漏りなどの修繕
- 防犯対策
- 火災保険
- 近隣への対応
なども必要になることがあります。
特に、相続人が遠方に住んでいる場合には、空き家となった実家を管理すること自体が大きな負担になりかねません。
誰も使用する予定のない不動産を売却することで、このような将来的な費用や管理の手間をなくすことができます。
前編のまとめ
相続した不動産を兄弟姉妹で分ける方法には、「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」があり、それぞれにメリットと注意点があります。
なかでも、
- 誰も実家に住む予定がない
- 誰も不動産の取得を希望していない
- できるだけ公平に遺産を分けたい
- 将来にわたって不動産の共有関係を残したくない
という場合には、不動産を売却して現金で分ける「換価分割」が有力な選択肢となります。
もっとも、換価分割では、単に不動産会社へ売却を依頼すればよいわけではありません。
遺産分割協議書をどのような内容にするのか、誰の名義へ相続登記をするのか、売却代金や費用をどのように精算するのか、税金の有無・納税準備など、売却前の相続手続きが非常に重要になります。
後編では、相続した不動産を換価分割する場合の遺産分割協議書、相続登記、不動産売却、相続税・譲渡所得税まで、具体的な手続きの流れと注意点について解説します。
令和8年8月18日掲載
※この記事は掲載時点での法律を前提に作成されております。
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