「遺言書を作っておけばよかった」と後悔しないために
相続トラブルを防ぐための遺言書の重要性
相続のご相談を受けていると、手続きの途中や、相続人同士の話し合いがこじれてしまった後に、よく聞く言葉があります。
「遺言書を作っておいてもらえたら、ここまで大変にならなかったのに」
相続は、どのご家庭にも起こり得る身近な問題です。
しかし、いざそのときになると、悲しみの中で手続きを進めなければならず、さらに遺産の分け方まで相続人全員で話し合わなければならないケースも少なくありません。
相続トラブルというと、財産が多いご家庭だけの問題と思われがちです。
しかし実際には、預貯金や自宅不動産が中心の一般的なご家庭でも、遺言書がないことで話し合いがまとまらず、親族関係が悪化してしまうことがあります。
特に、
- 子どもがいない夫婦
- 相続人の中に認知症の方がいる
- 不動産を誰が取得するかで意見が分かれそう
- 内縁のパートナーに財産を残したい
- 相続人同士の関係があまり良くないもしくは連絡が取れない人がいる
このような場合には、遺言書の有無が、その後の相続手続きの負担やトラブルの大きさを大きく左右します。
この記事では、遺言書がないことで起こりやすい相続トラブルと、遺言書を作成しておいた方がよいケースについて、相続実務の現場感も交えながら相続専門の司法書士が分かりやすく解説いたします。
まず確認したい
遺言書を検討した方がよい人チェックリスト
次のいずれかに当てはまる方は、遺言書を早めに検討することをおすすめします。
- 夫婦に子どもがいない
- 自宅不動産を特定の家族に残したい
- 相続人同士の仲があまり良くない
- 再婚で前婚の子がいる
- 内縁の配偶者やお世話になった方に財産を残したい
- 相続人の中に高齢の方や認知症の心配がある方がいる
- 財産の多くが不動産で、平等に分けにくい
- 自分の死後、家族に手続きの負担をかけたくない
- 相続で家族が揉めることをできるだけ避けたい
一つでも当てはまる場合は、遺言書を作る意味が大きい可能性があります。
遺言書とは何か
遺言書とは、自分が亡くなった後に、誰にどの財産を引き継いでもらうかをあらかじめ決めておく法的な意思表示です。
たとえば、遺言書では次のような内容を定めることができます。
- 不動産を誰に相続させるか
- 預貯金をどのように分けるか
- 特定の人に財産を残すか
- 遺言執行者を誰にするか
- お墓や仏壇など祭祀財産を誰に承継させるか
遺言書がある場合、原則としてその内容に従って相続手続きを進めることができます。
そのため、相続人全員で遺産分割協議をしなければならない場面を減らし、手続きを円滑に進めやすくなります。
反対に、遺言書がない場合は、原則として相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
この話し合いがまとまらないことが、相続トラブルの大きな原因になります。
遺言書がないことで起こりやすい相続トラブル
1 子どもがいない夫婦の場合
子どもがいないご夫婦で、亡くなった方の両親もすでに他界している場合、配偶者だけでなく両親や兄弟姉妹も相続人になる可能性があります。
この場合、配偶者と両親や兄弟姉妹が相続人となり、相続権をもつことになります。もっとも、兄弟姉妹には遺留分はありません。
たとえば夫名義の自宅に妻が住み続ける場合でも、遺言書がなければ、妻が当然にすべて取得できるとは限りません。
相続手続きのために、両親や疎遠な兄弟姉妹、そのさらに代襲相続人に連絡を取らなければならないこともあります。
実際、残された配偶者の立場からすると、
- ほとんど付き合いのない親族に連絡しなければならない
- 印鑑をお願いしなければならない
- 場合によっては金銭請求を受ける
- 気まずいやり取りを何度も重ねる
といった大きな精神的負担になることがあります。
しかし、たとえば
「妻にすべての財産を相続させる」
という遺言書があれば、両親や兄弟姉妹の同意がなくても手続きを進めやすくなります。
子どもがいないご夫婦にとって、遺言書はとても重要な生前対策の一つです。
2 不動産があり、代償分割になりそうな場合
相続財産の中心が不動産である場合、特に揉めやすくなります。
なぜなら、不動産は預貯金のようにきれいに分けにくいからです。
実際に相続実務では、
相続人のうちの一人が実家や相続不動産に住み続けたい
というご希望から、その方が不動産を取得し、他の相続人にお金を支払う代償分割が検討されることがあります。
もっとも、このとき問題になりやすいのが、「その不動産をいくらと評価するのか」「代償金はいくらが妥当なのか」という点です。
実際のご相談でも、
- ある相続人は「この金額なら納得できない」と主張する
- 不動産に住んでいる相続人は「そんな高額は払えない」と主張する
- 話し合いが感情論に発展する
- 結局、家庭裁判所での調停や審判に進む
- その後、親族関係が断絶状態になる
というケースがあります。
当初は「できれば穏便に進めたい」と話していたご家族でも、
一度対立が深まると、金額の問題だけではなく、これまでの不満や感情まで噴き出してしまうことが少なくありません。
このようなケースでも、遺言書で
「不動産は長男に相続させる」
「代償金についてあらかじめ考え方を示しておく」
「預貯金との組み合わせで分け方を決めておく」
などの準備ができていれば、トラブルの火種を小さくできる可能性があります。
3 相続人に認知症の方がいる場合
相続人の中に認知症などで判断能力が十分でない方がいる場合、その方を含めて有効に遺産分割協議をすることはできません。
その場合、通常は家庭裁判所に成年後見等の申立てを行う必要があります。裁判所も、申立て後の審判までおおむね1か月から2か月程度かかり、鑑定が必要な場合はさらに期間を要すると案内しています。
成年後見の利用が必要になると、
- 申立書類の準備
- 診断書など必要資料の収集
- 家庭裁判所への申立て
- 審理・選任までの待機
といった手続きが必要になります。
さらに、事案によっては弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が後見人に選任されることもあり、その場合は継続的な報酬負担が生じる可能性があります。
相続の現場では、
「相続人の中に認知症の方がいたため、遺産分割が進められず、後見申立てが必要になって想定以上に時間も費用もかかってしまった」
というケースは珍しくありません。
しかも、成年後見人が就いた場合、本人の財産を守る観点から、柔軟な遺産分割が難しくなることがあります。
その結果、
- 家族としてはこう分けたいと思っていた
- 介護や同居の実情も考慮してほしかった
- 早く終わらせたかった
という希望があっても、その通りに進められないことがあります。
「認知症になる前に遺言書を作っておけば、ここまで大がかりな手続きにならなかったのに」
というのは、実務で本当によくある後悔の一つです。
4 内縁関係のパートナーがいる場合
法律上の婚姻関係がない内縁のパートナーには、原則として相続権がありません。
長年一緒に生活していても、遺言書がなければ、財産を当然に受け取れるわけではないのです。
たとえば、
- 長年同居してきた
- 生活費を共に負担してきた
- 実質的には夫婦同然である
- 住んでいる自宅が亡くなった方名義である
という場合でも、遺言書がなければ、財産は法定相続人に承継されます。
その結果、残されたパートナーが、
- 住み続けてよいのか不安になる
- 預金を引き出せず生活資金に困る
- 親族との交渉が必要になる
という厳しい状況に置かれることがあります。
しかし、遺言書で
「内縁の妻(夫)に遺贈する」
と明確にしておけば、財産を残すことが可能になります。
「まだ元気だから大丈夫」は危険です
遺言書は元気なうちに作ることが大切
遺言書は、ご本人に意思能力がある状態でなければ作成できません。
そのため、
- 認知症が進行した
- 病気で判断能力が低下した
- 入院後に意思表示が難しくなった
といった場合には、作りたくても作れなくなることがあります。
相続のご相談では、
「本人も作るつもりではいたが、その前に体調が悪化してしまった」
「家族では遺言の話をしていたのに、結局間に合わなかった」
というケースも少なくありません。
遺言書は、必要になってから考えるものではなく、
作れるうちに準備しておくもの
と考えた方が安心です。
自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
遺言書には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、ご本人が作成する遺言書です。
メリット
- 比較的手軽に作成しやすい
- 公証役場の手数料がかからない
デメリット
- 方式の不備で無効になるおそれがある
- 内容があいまいで争いの火種になることがある
- 紛失や隠匿、改ざんのリスクがある
- 法務局保管を利用しない場合は、原則として家庭裁判所の検認が必要
もっとも、現在は法務局の自筆証書遺言書保管制度があり、遺言書を法務局で保管してもらうことができます。
この制度を利用すると、紛失や隠匿のリスクを下げられ、相続開始後の手続面でもメリットがあります。法務省も、法務局で適正に管理・保管されることや、利害関係者による破棄・隠匿を防げることなどを案内しています。
もっとも、法務局では内容のチェックはされないため、法的に正しいのかなどのリーガルチェックは司法書士や弁護士などの専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言書です。
メリット
- 法律上の方式不備による無効のリスクが低い
- 内容を整理して作成しやすい
- 原本が公証役場に保管される
- 家庭裁判所の検認が不要
デメリット
- 作成に手間と費用がかかる
- 証人が必要になる
相続トラブルの予防という観点からは、一般的には公正証書遺言の方が安心度は高いといえます。
遺言書を作るときは「内容」も重要です
遺言書は、ただ作ればよいというものではありません。
内容が不十分であったり、実際の財産状況と合っていなかったりすると、かえって新たな問題が生じることもあります。
たとえば、
- 不動産の表示が正確でない
- 預貯金の記載が不十分
- 誰に何を渡すのかが曖昧
- 遺言執行者が定められていない
- 遺留分への配慮が足りない
といった場合です。
特に、相続で揉めそうな事情がある場合は、
「どの財産を誰に承継させるのか」だけでなく、なぜその分け方にしたのか、実務上その内容で本当に手続きが進められるのか
まで見据えて作成することが大切です。
まとめ
遺言書は、家族への最後の思いやりです
相続トラブルの多くは、財産の多さそのものよりも、
「誰が何を相続するか決まっていない」
「相続人全員で話し合わなければならない」
という状態から始まります。
遺言書があれば、
- 家族の精神的負担を軽減しやすい
- 遺産分割協議が不要になる場面がある
- 相続手続きをスムーズに進めやすい
- 不動産や認知症の問題で揉めるリスクを抑えやすい
- 残したい相手にきちんと財産を渡しやすい
という大きなメリットがあります。
相続実務の現場では、
「遺言書を作っておけばよかった」
「きちんとした遺言書があれば、ここまで親族関係が悪くならなかったかもしれない」
という声を本当によく耳にします。
遺言書は、財産を分けるための書面であると同時に、
残されるご家族への最後の思いやり
でもあります。
ご自身の相続でご家族が困らないように、また、円満な相続につなげるためにも、元気なうちから遺言書の作成を検討してみてはいかがでしょうか。
令和8年3月30日掲載
※この記事は掲載日時点の法令・制度を前提として作成しています。
相続でお困りのときは専門家にご相談ください
相続は、ご家庭の状況によって必要な対策が大きく異なります。
特に、不動産がある場合、子どものいないご夫婦、認知症の心配がある場合、内縁関係のパートナーがいる場合などは、早めのご相談が大切です。
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